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株式会社キューズ

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宮下寛樹さん
第3回 

ミクロン単位で精度を高める光学機器部品
多品種少量生産で暮らしと医療を支える



株式会社キューズ
宮下寛樹代表取締役

伊那市出身。大学卒業後、オリンパス勤務を経て父親が経営するキューズに入社。2年の海外駐在を経験し、2012年に代表取締役就任。地元の学校の楽器修理の相談にも乗る。

ミクロンレベルで精度を求める光学機器の世界

ミクロンレベルで精度を求める光学機器の世界

金属や樹脂の材料を切削し、光学機器に使用する部品を製造している

ミクロンレベルで精度を求める光学機器の世界

出荷前の製品チェック用機材。品質を最優先に小ロット生産を行う

カメラに顕微鏡、血液などの分析器、工業用の内視鏡システムまで、レンズを使った精密な仕事で暮らしや医療を支える光学機器。伊那市のキューズは、光学機器の部品に特化して切削加工を行うメーカーです。代表の宮下寛樹さんのお父様がオリンパスから独立し、1975年に創業。以来45年、主にオリンパスグループの製品に提供する部品を手がけ、絶え間なく技術の進化を続けてきました。時代とともに、光学機器に求められる精度はますます上がっているためです。
「顕微鏡の場合、求められる精度は5ミクロン(1000分の5mm)レベルです。さらに近年は電子顕微鏡や、従来のように手元で調整するのではなくモニターを見ながら操作できる顕微鏡のニーズが高まっています。それに伴い、求められる精度も飛躍的に上がっています」
 と宮下さん。光学機器メーカーから厚い信頼を集める同社の製品は、ノーベル賞クラスの研究者が使用する数億円単位の機器にも使われています。そのほか国内外の研究機関や病院、大学など、専門分野で使われるものゆえ製造量は少数。一品目につき10個程度しか製造しない製品も珍しくありません。クライアントのきめ細かい要望に答えるために切削機械メーカーや刃物メーカーと協力し合い、時にはカタログにない刃物や機械を特注することも。パートナー企業とのチームワークにより、創業時から続く「多品種少量生産」の強みを発揮しています。
 同社の品質を物語るのが「同じ機械を常に2台購入する」という驚きの方針です。一つの部品の表面と裏面を一人の技術者が連続して加工し、細かく精度を確認しながら進められるようにするため。わずかなズレや変形も見逃さず、すぐに改善できるため必要不可欠なのです。
「作業効率は良くありませんし費用もかさみますが、ミクロン単位の精度確保のために必要だと判断しています。初期投資が大きい分、精度が必要な単価の高い仕事を集めています」

ドラマチックな革命よりも、地道な改善を大切に

ドラマチックな革命よりも、地道な改善を大切に

自然豊かな伊那谷に位置する本社工場。社名の由来は創業者の名前「久」から

ドラマチックな革命よりも、地道な改善を大切に

「機械あっての加工」と、機械メーカーとのパートナーシップを大切にする宮下社長

大学卒業後、お父様と同じくオリンパスに入社した宮下さん。加工部門に籍を置き、将来はキューズに参加して経営を引き継ぐことを視野に入れていました。
 しかし、そのタイミングは意外なほど早く訪れます。2000年、キューズを含むオリンパスの外注企業3社合同でフィリピンに工場を設立したのを機に「手伝ってほしい」とお父様から要請を受けたのです。キューズに入社してすぐフィリピンへ飛び、輸出部門担当として奮闘の日々が始まったのでした。
「正直まだオリンパスでやり残したことがたくさんあったので、抵抗したんです(笑)。でもオリンパスにとっても、外注先であるフィリピン工場は重要な拠点。なんとか行ってくれ、と当時の上司にも言われましてね」
 キューズ入社10年後には、代表取締役に就任。先代が早々に決断したことで、まだ30代だった宮下さんは「戸惑いの連続でした」と振り返ります。そこで大きな助けになったのが、信用保証協会の経営指導サービスでした。毎月経営相談員が訪問し、決算書を元にしたシミュレーションや経営方針などの相談に乗ってくれたのです。
「一人でやっていたら分からないことばかりでした。父は代表を引退後すぐ日本一周の旅に出てしまったので(笑)、信用保証協会の経営指導のおかげで、だいぶ会社の実態や経営が見えるようになりました」
 引き継いだ当初は、「会社に新しい風を吹かせよう」と考えたこともあったという宮下さん。しかし、どこかしっくりこなかったと言います。
「父はあまり現場に口出ししないおおらかな経営者でしたが、それでも会社はうまく回っていましたし、売上もきちんと上がっていました。私がここで何か大きく変えても、周囲のためにならないのではないか。社内でも自社の強みを話し合い、『革命を起こすのではなく、今あるものを磨きながらコツコツ成長していこう』と方針を決めました」

身の丈に合った増築で効率アップ

身の丈に合った増築で効率アップ

年々、求められる精度が上がっている光学機器部品。きめ細かい品質管理を徹底する

身の丈に合った増築で効率アップ

マシニングセンターや自動旋盤が並ぶ工場内。2017年の増築以来、動線もスムーズに

基本は先代のやり方を引き継ぎながら、さらに売上を伸ばすため考えたのが「無駄をなくして効率を上げること」。その一つが、2017年に行った工場増築です。単に面積を拡張しただけではありません。並行して機械や作業スペースのレイアウトを大胆に変えることで、課題だった作業効率を大きく向上させたのです。
「平屋建てのまま縦長の空間にして、一番奥に材料の搬入口を置き、そこから工程順に作業場を配置して、最後に完成品が建物正面からスムーズに出荷できるようにしたんです。シンプルですが、驚くほど効率が上がった。『こんなに変わるのか』とびっくりしましたね」
 当初、周りからは増築ではなく全面建て替えを勧められたそう。しかし前述の通り、光学機器はニッチな市場。それをよく分かっていた宮下さんは「今は順調でも、市場のパイに合った規模にしておこう」と考えました。その判断が奏功し、売上も従業員数も順調に増えていったのです。
「景気の影響を受けにくい市場なのも良かったと思います。ただ、2020年の新型コロナウイルス感染拡大による打撃は大きかったですね。当社製品が使われる光学機器は欧米ユーザーが圧倒的に多い。各国が軒並みロックダウンしたことで、売り上げは大きく減少しました。」
 今後の目標は、「安くして買ってもらう」のではなく「高価でも買いたいと思われる」高精度の製品を作ること。そしてもう一つ温めている計画が、自社のオリジナル製品です。
「利益とは別の軸で、自分たちで考えて生み出したものを販売したいと思っています。今、試作しているのはトロンボーンのマウスピース。趣味で演奏している友人から『買うと高いんだ』という声を聞いて、『これなら当社の切削技術で作れるかもしれない』と思ったのがきっかけです。安く作れる技術を開発できれば、自分に合う形のマウスピースをオーダーメイドで手軽に作ることができる。楽器を楽しむ人を増やしたいという、彼の夢を手伝えるかもしれないんです」
 先代から継いだものを守りながら、新しい試みも始めたキューズ。今後の発展が楽しみです。

会社データ 株式会社キューズ
創業 昭和50年(前身の「宮下精工」)
事業内容 光学・医療機器部品の切削加工
住所 〒399-4501 長野県伊那市西箕輪1582-1
TEL 0265-72-9999
HP http://www.9-s.co.jp
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