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有限会社 清風荘

大関 松男専務取締役

清風荘は、信州屈指の温泉郷・湯田中温泉にある昭和26年開業の旅館です。厳しい観光業界にあって海外からの誘客(インバウンド)に成功しファンを増やし続けています。その接客に対する考え方やこれまでのご苦労を専務取締役である大関松男さんにお伺いしました。

<海外のお客様に喜ばれる理由>

<海外のお客様に喜ばれる理由>
<海外のお客様に喜ばれる理由>

何か特別外国人寄りに変えているわけではなく、そのまま受け入れているのが理由の一つではないでしょうか。今までの日本人客を受け入れてきた体制でやっていることが、逆に日本文化の体験としてうけているのかと。お客様の話を聞くと『ファンタスティック』や『アメイジング』だとか喜ばれた表現をされることもありました。特に露天風呂やこたつに反応される方が多いです。印象深いのが、初めてオーストラリアからのお客さんを迎えたときにこたつを指さして狂喜乱舞されたことがあり、その時に『あっ、これでいいんだな』と安心したのを覚えています。
日本人には当たり前のことが『リアルジャパン』だと喜ばれる。我々がヨーロッパに行ったときに暖炉をみて感動するような感じで、TVやアニメで見ていた日本の光景を目の当たりにして本物なんだと感動されているということではないでしょうか。

設備もそのままで英語の話せるスタッフを雇ったというわけでもないです。私も英語は全くダメですし。(笑)逆にお客様のほうがそのつもりで来てくれています。iPadやグーグルを使って話すときもあります。今のところはそれ以上に面白がってくださっているようで不都合はないかなと。英語はできないですが、こっちも楽しみながら迎えているということが理由の一つかと思います。それは地域全体でも同様。ただ、やはり言葉の壁はあるので、野猿公苑への行き方や時間などは丁寧に伝えるようにしています。
あとは初めて温泉に入るお客さまにも気を配っています。外国の方って地元の人とのコミュニケーションも旅の目的になっており、そういう面でも喜んでいただいているのかなと思います。

<観光業界に飛び込んで>

<観光業界に飛び込んで>

私が26歳で長野に帰ってきたときは長野オリンピックも終わり団体旅行も少なくなり観光業は不況に入ってきたところでした。また、当地区は冬場のスキー客も減少し厳しい状況でした。ただ、そういう現実を見ていても結構軽い気持ちで帰って来てましたね。その後右往左往する中で、インターネットの普及に合わせてネットを利用した営業をコツコツと続けてきていました。ただ、やはり国内向けの誘客は厳しかったです。暗い時代でした(笑)ちょうど露天風呂付客室がブームの頃でしたが、ウチはもちろん無かったしトイレも部屋になく、ほんとに厳しい状況でした。
そこで何か新しい客層を模索する中で、ちょうど地域の農協さんや八十二銀行さんが何か新しいことに取り組むことにすごく応援してくださっていて、外国人の受け入れを始めようという方向になりました。そこで具体的に取り組んだことといっても、お金をかけて直すということはできなかったので、とりあえず館内の英語表示を自分でプリンタで直したりとかでした。ただ、海外のコーディネーターからインターネット環境だけは整えたほうがよいというアドバイスがあったので無線LANの設備だけは行いました。

<海外の方を迎えるにあたって苦労したことは>

<海外の方を迎えるにあたって苦労したことは>

最初に香港の旅行会社に営業に行ったらかなり不評で『部屋にトイレがない』とか『国際放送は見れないのか』などの指摘がすごかった。特に香港は訴訟社会なのでかなり神経質に調査され、結局『おたくの旅館では無理』との結果となったことがありました。それなりに費用をかけて思い切ってセールスにいったところで、いきなり叩かれたというのは本当にショックでした。その後、帰国してからいろいろな方から話を聞くと、現地のエージェントなんてそんなもんだと。それよりもほんとに来たいと思っている、『リアルジャパン』を見たいと思っている冒険心のあるお客様だけを取りましょうというアドバイスをいただいたのが転機になりました。逆にその時の体験が強みになったというか、その時の気持ちを今でも思い出しますね。その時に親身になってくれたアドバイザーの小野さんやJA・八十二銀行の担当者さんの存在は大きかったです。
できないことはできないといったほうがいいですね。よく驚かれるのが、ウチはクレジットカードが使えないんです。カード社会の海外で非常識かと思われますが、最初からCashOnlyだと伝えたことがよかったのではないでしょうか。

観光は地域の総合力

観光は地域の総合力
観光は地域の総合力

国内向けではスキー場の閉鎖や設備の老朽化などで冬場の誘客は厳しくなっており違う客筋の獲得が必須だった中で、当地区は長野オリンピックの経験から地域の方が海外の方と抵抗なく交流を楽しんでいました。そこでもっと本格的に海外の誘客に取り組むことにより、厳しい時代だけれども楽しく商売がやっていけるんじゃないかなと考えました。また当地区には地獄谷の『スノーモンキー』があったことが大きいのではないでしょうか。これは圧倒的に世界に認知されているもので、それもSNSで広がったことからか、インターネットでの誘客に適していたと思います。
海外の方は圧倒的に素泊まりで、外で食事することが多く地元の居酒屋さんなどが率先して受け入れてくれたりとかの協力体制が必要です。この地域は本当にそれができている。例えば英語の話せるボランティアガイドが駅で待機していて、電車が到着する度にお客様をご案内するなどしてくれています。どこか一軒だけが頑張っても仕方がなく、うちのように安いところもあれば高級な旅館も必要。スノーモンキータウンには泊まるところがたくさんあると認識してもらうことが必要であり強みになる。
観光は地域の総合力であり、観光業界に見えてきた一つの光がインバウンドだと思っています。湯田中の旅館業者は仲がいいと思います。自分が海外サイトに登録することを勧めたときも一緒になって取り組んでくれました。もちろん適正な競争はしてますけどね。

<この仕事の魅力と夢>

<この仕事の魅力と夢>
<この仕事の魅力と夢>

この仕事の魅力としては居ながらにして世界旅行ができるということですかね。また宿泊されたお客様とフェイスブックで友達になったりして、その後もつながっています。ありのままの自分で(笑)接していますが、そのお客様の最初で最後の旅館かもしれないので、楽しんで帰ってもらいたい と思って接客しています。これは日本のお客様に対しても同じですが。
観光業界では2017年が話題となっています。それは2017年には日本人が海外に旅行するよりも、海外の観光客が日本に来るほうが多くなると予想されていることです。その時に本当の意味での国際化・観光立国としてのスタートになるのではないかと。観光業が日本の産業の中で何かインパクトを持つことになるような気がしており、その瞬間の景色を現場で体感したいという興味があります。

<変わらない努力>

<変わらない努力>

とにかくお客様に必要とされる旅館でありつづけていたいです。せっかくの日本旅行ですから、泊まりたいと思っていただけたお客様には喜んで帰ってもらいたいです。
お客様一人一人に満足して帰ってもらうことと、地域に還元できるような接客をしていきたい。その為に変わらない努力を続けていきたいと思っています。

社名 有限会社清風荘
所在地 〒381-0401 長野県下高井郡山ノ内町大字平穏3268
TEL : 0269-33-3295 FAX : 0269-33-2811
http://yudanaka-seifuso.com/
代表者 代表取締役社長 大関秀夫
設立 昭和26年
事業内容 旅館業
影響を受けた人物 藤嶽彰英 先生(紀行作家)
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