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長野鍛工株式会社

中村 基代表取締役社長

長野市に本社を構える長野鍛工株式会社は、台風19号やコロナを乗り越えるべく、事業を承継した若き経営者が再建に取り組んでいるエンジンバルブメーカーです。
代表取締役社長の中村 基さんにお聞かせいただいた事業への想いや夢をご紹介します。

ルーツの鍛造から事業を拡大

ルーツの鍛造から事業を拡大

 当社のルーツは、社名にもある鍛造事業です。鍛造とは、金属を叩いて圧力を加えながら成形する加工方法で、強度の高い製品を製造できます。その鍛造技術を磨いてきたことで、現在の主力事業であるエンジンバルブ製造を受注できるようになりました。エンジンバルブはガソリン自動車のエンジン(内燃機)に使用されます。エンジン部品の中で、最も重要な部品といっても過言ではありません。エンジンバルブは、900℃に耐えられる耐熱・耐摩耗の鉄鋼材を使って製造します。通常の金属製品に使用する材料とは異なり、加工が難しい材料、いわゆる難削材です。材料から製品に仕上げるまで、材料の切断、鍛造、熱処理、機械加工など多くの工程が発生します。当社は全ての工程に対応し、一貫生産を続けてきました。その生産を続けてきたことで、難削材の加工ノウハウを培ってきました。そのノウハウがあったので、産業機械など他分野の機械加工も受注できるようになりました。
 こうして、鍛造、エンジンバルブ製造、機械加工の3つを事業の柱として築いた歴史があります。受注1つ1つに誠実に対応し、技術を磨き続けてきた結果、2023年5月に設立70年の節目を迎えられるほどに事業を拡大できました。

復旧、復興に向けて事業を承継

復旧、復興に向けて事業を承継

 そんな長い歴史がある中で近年は、2019年に台風19号、2020年からはコロナといった災禍に見舞われました。私が社長に就任した時期は、復旧を図る2020年7月でした。当時、36歳でした。前社長の父が、これからの経営には若者の視点やパワーが必要であると判断し、このタイミングで事業承継をしました。「やるしかない」という気持ちでした。元々後継者として事業を継ぐ予定で、2016年から2017年にかけて10ヶ月間、東京にある中小企業大学校の後継者コースで経営について学んでいました。そのおかげで心の準備ができ、突然の就任でも受け入れることができました。就任当初はコロナ禍のため取引先のお客様へ挨拶に行けなかった分、会社内部の立て直しに注力することにしました。社内の復旧が、社長となった私の最初のミッションでした。
 台風では甚大な被害を受け、その影響はBCP(事業継続計画)の想定を上回るほどでした。どの事業も被害を受け、その中でも鍛造事業が最も被害が大きく、復旧に20億円が必要でした。そこで前社長と話し合い、ルーツでもあった鍛造事業からの撤退を決断しました。苦渋の決断でした。30名ほど担当者がおり、その中には40年近く担当していたベテランもいた事業です。その担当者たちと泥だらけの工場を見て、やりきれない気持ちになったことを今でも覚えています。担当者は他の部門に配属しましたが、気持ちに整理がつかない様に見えました。その時に私が意識していたことは、ネガティブな発言をしないことです。台風やコロナで雰囲気が暗かったので、せめて自分の言葉で社員が元気になればと思っていました。

新しい設備を導入し、幅広い製品に対応

新しい設備を導入し、幅広い製品に対応
新しい設備を導入し、幅広い製品に対応

 鍛造事業から撤退し、事業の柱はエンジンバルブと機械加工の2つに減りました。エンジンバルブも国産車の生産減少の影響を受けており、売上が足りない状況でした。今まで対応してこなかった受注を獲得していくことが必要でした。そこで復旧、復興に係る国の補助金を活用し、鍛造を行っていた工場の修繕と新たな設備の導入によって、小ロット生産や試作品に対応できる体制を整備しました。以前から依頼はありましたが、量産品のみ対応していたので生産体制が整っておらず、受注を断り続けていました。小ロット生産や試作品は、量産品より1品あたりの利益が見込めます。量産に向けた試作品であれば、その後の安定した受注につながるため、復興に向けた1つの柱になると考えています。
 注目している小ロット製品の1つが、一般個人のお客様を対象とした国産中古車のエンジンバルブ(アフターパーツ)です。今、東南アジア・アフリカ・南米などの新興国を中心にアフターパーツの需要が高まっています。2035年まではアフターパーツ市場が伸びるというデータもあります。一般個人のお客様からの受注という点も重要です。法人のお客様からの受注だと、完成した自社製品を使っている方の声を実際にきくのが難しくなります。一般個人のお客様へ販売すると、購入した方がSNSに投稿したり、その方から直接感謝の言葉をいただいたりと、自分たちのやっている仕事が誰かの役に立っている実感が湧きます。社員もそのことがモチベーションにつながっています。

手を差し伸べられる企業、頼られる企業となる

手を差し伸べられる企業、頼られる企業となる

 自動車産業は大きな転換期を迎えており、エンジンを必要としない電気自動車へシフトする流れがあります。ただ、全ての車が電気自動車にシフトするとは考えにくく、重機や農機、発電機はエンジンが必要不可欠です。他には家庭用エネファームやドローンにも使用されています。これからも必要とする方は多く、その方に手を差し伸べられる企業、頼られる企業となることが今後の夢です。
 この夢を掲げたきっかけは、台風です。そのとき支えてくれたすべてのステークホルダー、地域の方々へ恩返しをしたいと感じています。この長野市穂保地域で事業を続け、100年企業となる2053年までに、夢に掲げた姿になることを目指しています。そのために、常に技術とサービス力を鍛え上げ、一流を目指し続けています。

会社名 長野鍛工株式会社
事業所 〒381-0003 長野市大字穂保字中之配291-1  
HP http://www.nagatan.co.jp
事業内容 エンジンバルブ製造、機械加工
従業員数 175名
店舗外観 外観写真
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