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千人風呂の宿 常盤屋旅館

齊藤 優樹代表取締役

千人風呂の宿 常盤屋旅館は創業380年の長い歴史を持つ老舗の温泉旅館です。代表取締役の齊藤 優樹さんにお聞かせいただいた事業への想いや、今後の夢をご紹介します。

源泉に近く豊富な湯量を誇る「癒し」の空間

源泉に近く豊富な湯量を誇る「癒し」の空間
源泉に近く豊富な湯量を誇る「癒し」の空間
源泉に近く豊富な湯量を誇る「癒し」の空間

常盤屋旅館の特徴は3つあります。1つ目は創業380年というとても長い歴史があること、2つ目は野沢温泉の中でも豊富な湯量を持っていること、3つめは「大湯」という野沢温泉のシンボルともいえる存在のすぐ隣に面しており、立地が大変良いということです。温泉街の中心に位置しているので「大湯」含めた13カ所の外湯巡りも楽しんでいただきやすいです。 当館のお風呂の一つには、「千人風呂」という名がついています。聖武天皇の時代の飢饉の折に、光明皇后様の夢枕に神様が立ち、「千人の垢を洗い流したら、願いを叶える」と告げられたという逸話があったそうです。その逸話を初代当主が大変気に入って、「自分も分け隔てなく来た方に癒しを提供できるようになりたい」とおよそ380年前に宿屋を始めました。千人風呂にはこうした初代の想いが込められています。

当館は、野沢温泉の中でも比較的豊富な湯量がありますので、「千人風呂」は、ちょっと熱めの岩風呂、寝ながら入れる寝湯、温度を下げたぬる湯、と温度の違った様々なお風呂を広く開放感がある空間で楽しんでいただけます。お湯は野沢温泉らしい単純硫黄泉を提供しています。温泉は、源泉から湧きだしてから、実際にお客様に入っていただけるまでの距離、鮮度がとても重要ですが、当館の場合は源泉がすぐそばにありますので、湧き出てからすぐの新鮮なお風呂に入っていただけるというのが魅力的です。 当館にはもう一つ「薬師の湯」というお風呂もございます。これは子宝の湯とも言われていて、昔から当館の「薬師の湯」に入ると、子宝に恵まれるといった伝説があり、それを目当てに来られるお客様もたくさんいらっしゃいます。

コロナ禍のピンチを乗り越えて、みんなが笑顔になれる旅館に

コロナ禍のピンチを乗り越えて、みんなが笑顔になれる旅館に
コロナ禍のピンチを乗り越えて、みんなが笑顔になれる旅館に

当館は創業380年という長い歴史がございますが、実は14年前に廃業の岐路に立たされた時がありました。その際、歴史があり、温泉街の中心にも位置する当館を失くすわけにはいかない、と当時の村人数人が新たに会社を立ち上げ、経営を引き継いで現在に至っているという経緯があります。
私は埼玉県出身ですが、妻が野沢温泉の出身で、ちょうど当館の経営が新会社に引き継がれた頃に野沢温泉に移住してまいりました。その時はまだ、別の旅館で従業員として働いていました。 経営の経験はなかったのですが、興味はありまして、村でいろいろな経営者の方が集まった勉強会が開催されていたこともあり、従業員として働きながら経営の勉強会にはたくさん出させていただきました。その後、勉強会のご縁もあり、常盤屋旅館の支配人をやってもらえないかとスカウトを受け、2020年10月に当館に入社しました。入社当時より、当館は新会社にはなったものの、代表者の高齢化に伴う事業承継に課題を抱えており、先行きが見通せない状況に陥っていました。加えて、当時はコロナ禍の影響を大きく受けており、当館も経営的に非常に厳しい状況であったため、新しい後継者を探してもなかなか引き受けてはもらえなかったようです。
私が後継者として具体的な打診をいただいたのは、入社から1年以上経った2022年の4月頃でした。先ほど申し上げた通り経営が厳しい状況でしたので、事業を引き受けるというのはとても勇気のいる決断でした。経営の勉強をすることで、経営者の大変さ、意思決定によるすべてを負っていかなければいけないという責任の重さはよく理解できていましたので。それでも、引き継ぐと決めたのは、初代当主がこの宿を始めた時の想いを聞かせていただき、自分もこの地域のためになりたい、この宿の力になりたい、ここで働くスタッフのためになりたいという想いを強く持ったからです。妻にも相談し、「やってみなさい」と背中を押してくれたことが、最後の決め手となり、2022年8月、代表取締役に就任しました。
コロナ禍の真っ只中だったため、引き継いだ最初の頃の経営状態はどん底でした。しかし、一緒に働いているスタッフが笑顔になることで、その家族も笑顔になり、その笑顔でお客様も笑顔になって、取引している業者さんも笑顔になれば、最終的にこの地域も笑顔になる。そういった笑顔の連鎖を生み出していける可能性がここにはあるので、とてもやりがいがある仕事と信じ、ひた向きに頑張りました。GO-TOトラベルのおかげで最低限の営業はできたため、なんとかこの間に、宿を支えていただくスタッフが少しでも働きやすくなるようにと、就業規則の整備やIT化による事務作業の効率化などに取り組むことで労働環境の改善に注力しました。従業員ともよく話し合うことで、互いのベクトルを合わせることに繋がり、働きやすい環境が徐々に整備され、スタッフの意欲も高められたと思います。
旅館業というのは一人では何もできません。お料理で喜んでもらいたいという料理人、お客様を笑顔で受け入れたいというフロント係、お部屋をしっかり掃除して気持ちよく過ごしてもらいたいというお部屋係、いつでも気持ちいい温泉に入ってもらえるように温度を管理する湯守。それぞれがその役割の中で、その人にしか出来ないパフォーマンスを最大限活かしていくことが重要です。そのためにはどうしたらよいのか、それをいつも考えています。私はもともとサラリーマンで、中間管理職も長く経験してきたため、比較的スタッフよりの目線を持った経営者だと思います。それには良い面も悪い面もあるとは思いますが、とにかくスタッフと笑顔が出せる様に、そこが一番大事だと思います。この点はぶれずにやっていきたいです。

スタッフとの絆を武器に古きを温め新しきに挑む

スタッフとの絆を武器に古きを温め新しきに挑む
スタッフとの絆を武器に古きを温め新しきに挑む

矛盾するかもしれませんが、古くて良いもの、変わらないものを守っていくためには変わっていく必要があります。たとえば当館は、雰囲気、お部屋、お風呂とこれらのいずれもが老舗の日本らしい旅館といえます。けれどある意味そういった旅館はたくさんあるわけです。そのような中で当館がどうやって生き抜いていけばいいのか。その答えの一つとして、お料理を普通の会席料理ではなく、フレンチの要素を取り入れたコース料理にすることで差別化を図りました。というのも、当館の料理人がもともとフレンチのシェフで、ミーティングの中で「自分のやりたいことを表現出来たらすごくうれしい」という話を聞いたので、「じゃあやってみよう」と、和の良さを残しつつもそこに思いきってフレンチを融合させた新たな会席料理を提供することになりました。おかげさまでお客様からは大変好評をいただいております。このように提供する形は変わったとしても、多くの人を癒し喜んでもらいたいという想いが変わることはありません。

地域に恩返し、そして想いを未来へ紡いでいく

地域に恩返し、そして想いを未来へ紡いでいく
地域に恩返し、そして想いを未来へ紡いでいく

当館は創業380年という長い間、お客様や地元の人に愛され、支えられてきました。これからは、応援して下さった人たちに何か恩返しができるよう、地域のために出来ることに取り組んでいきたいです。
また、温泉の湯量が豊富なので、野沢温泉で唯一の全室に温泉がついた宿にもしたいです。多種多様な方がこられる現代において、人目を気にせずお風呂に入りたい方も多いでしょうから。そういった方にも分け隔てなく癒しを提供し続けていきたいです。
この宿は、「癒し」がキーワードになっています。来ていただいたお客様が、「野沢温泉はお湯が熱いことで有名だけど、人もあったかいな」と思っていただけるような空間作りや、静かな環境の提供など、とにかくお客様が癒しを感じられるように、スタッフ一同心がけて日々営業しております。「フロントスタッフの笑顔に癒されました」「ご飯を食べて本当においしくて笑顔になりました」「スタッフさんの対応がよかったです」など、励みになる多くの口コミをいただいています。お客様にそう言っていただけることが一番うれしいです。
会社も物も、形あるものはいつか絶対壊れます。でも、初代の想いは380年間壊れずにいまだに続いています。それを未来に紡いでいくのが私の責務であり、この会社の存在意義だと思っています。

企業名 株式会社常盤
所在地 〒389-2502 下高井郡野沢温泉村大字豊郷9347
HP http://tokiwaya.jp
事業内容 温泉旅館
店舗外観 外観写真
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